ITガバナンスの落とし穴とは?~DXとの関係性や失敗しないためにすべきことを学ぶ~【コンサルタントのインサイト】
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【 コンサルタントのインサイト 】
本シリーズは、Regrit Partnersに所属するコンサルタントが過去に
携わったプロジェクトの経験を横断的に俯瞰し、個別ソリューション
や産業に関する独自のインサイトを発信する記事です
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目次
- 1.そもそもITガバナンスとは
- 2.DXと「デジタルガバナンス・コード」の関係性とは?
- 3.「DX認定制度」について
- 4.DXにおけるITガバナンスの落とし穴
- 5.ITガバナンスを失敗しないためにすべきこと
- 6.失敗事例
1.そもそもITガバナンスとは
ITガバナンスとはさまざまな定義が存在する言葉で、「コーポレートガバナンス」から派生した言葉と言われている。経済産業省では「IT ガバナンスとは経営陣がステークホルダのニーズに基づき、組織の価値を高めるために実践する行動であり、情報システムのあるべき姿を示す情報システム戦略の策定及び実現に必要となる組織能力である」(出典:「システム管理基準」経済産業省)と定義している。
また、ITガバナンスにおける経営陣の具体的な役割としてITガバナンスにおける国際標準であるISO/IEC 38500 シリーズおよび日本での規格である JIS Q 38500では、「EDMモデル(図❶)」が定義されている。
2.DXと「デジタルガバナンス・コード」の関係性とは?
一方でDX(デジタルトランスフォーメーション)とは何か?と問われた際に皆さんは何と答えるだろうか?
前述のITガバナンスを定義した経済産業省では「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」(出典:「デジタルガバナンス・コード2.0」経済産業省)と定義されている。
つまり、データとデジタル技術を活用した経営改革やイノベーティブな製品・サービスが競争優位性を決定づける大きな要因となって企業の生まれ変わりが必要不可欠になっている現状を踏まえ、一部の業務や機能をデジタル化(IT化)するのではなく、経営方法や製品・サービスの内容全体をデータとデジタル技術の活用をして抜本的に見直すことを指している。
DXを定義している「デジタルガバナンス・コード」では、ITガバナンスの指針を提供するため以下の4つの柱を定義し経営者の役割を示している。
1.ビジョン・ビジネスモデル
2.戦略
2-1.組織づくり・⼈材・企業⽂化に関する⽅策
2-2.IT システム・デジタル技術活⽤環境の整備に関する⽅策
3.成果と重要な成果指標
4.ガバナンスシステム
3.「DX認定制度」について
DX推進を実現できる状態(DX-Ready)となっている企業を認定する制度として経済産業省は2020年11月よりIPA(独立行政法人 情報処理推進機構)と協力し「DX認定制度」を開始している。デジタルガバナンス・コードに則り、主にDX推進についてのビジョン策定、戦略立案、体制整備などをすでに行い、実行の準備が整っていることを認定するもので取得することで主に下記に挙げるメリットを得ることができるため注目を集めており、「DX認定」を得るためにITガバナンスを見直す企業が増えている。
- ●DXにあたっての課題整備・経営者のコミット
DX認定基準を満たすためには、企業経営やデータ活用の方向性や推進体制、達成度を示す必要がある。この過程で課題整理が行われ、課題をもとにDX推進のビジョンや戦略を策定することによって経営者自身コミットを明確化できる。 - ●「DX銘柄」等のインセンティブ
上場企業の中で、優れたデジタル活用の実績を認められた企業は「DX銘柄」として選定される。DX認定制度において企業が上位レベルに認定されれば、この「DX銘柄」に選ばれる可能性があり、投資の判断材料としてもアピールできるため、経営面へのプラス効果が見込める。 - ●企業・ブランド価値向上
「先進性・将来性のある企業ブランド」という認知浸透が見込めるため、社外からの信用獲得につながるほか、人材不足が課題となっているハイレベルデジタル人材獲得においてもメリットがある。
4.DXにおけるITガバナンスの落とし穴
実務レベルでのDX成功には変化の激しい環境に対応するためアジリティ(「機敏性」、「敏しょう性」、「軽快さ」)が重要という考えがある程度浸透している。DXを推進する過程での業務改革や新規事業開発プロジェクトでは、リリーススピードや柔軟な変更が重視されすぎて、リスク低減のためのコントロール(厳格なルールに基づく審査、確認・レビューなど)に時間を割かなくなっていて、その為に一般的なITガバナンスが見落とされることが懸念される。
各業務部門や個々人での自由な変更・追加はすぐにできる一方で、短期間開発で陥りがちな調査不足による機能重複やドキュメントの未整備、最悪の場合はテスト不足による不具合発生によって事業影響を引き起こすだけでなく、過失・不正の温床となり、重大事故、法令違反、顧客やユーザーへの過度な負担などにつながってしまう。
環境変化へ素早く対応し優れたサービス・製品をリリースしても、ITガバナンスを疎かにしたが故に将来的な開発や新技術への対応時に工数増や不具合発生を引き起こしていたのでは意味がない。
5.ITガバナンスを失敗しないためにすべきこと
開発費用や利用範囲をもとにITガバナンスの強弱を設定している企業が多いが、現状の考え方を踏襲したままアジリティを高めようとするとチグハグなITガバナンスが構築される可能性がある。
大前提となるビジョン・ビジネスモデルはもちろんのことシステムの位置づけ、要素技術、組織/メンバの成熟度をチェックし状況に応じた定義が必要となる。
- ●システムの位置づけ
ビジネスモデルや中長期の戦略において対象となるシステムや機能がどういった位置づけで、またアジリティとリスクの天秤をどちらに傾けるのか - ●要素技術
対象システムだけでなく接続されるシステムまで含めて要素技術が枯れているのか芽吹いたばかりなのか、今後どういう推移をたどる想定で、どんなリスクをはらんでいるのか - ●組織/メンバの成熟度
ITガバナンスに対する理解が組織内に浸透しており、また実現可能なスキルを保有しているか
特に組織/メンバの成熟度に関してはシステム部門に限らず、システムに要求を出してくる業務部門の成熟度(≒理解度)も非常に重要な要素となる。
システム部門と業務部門の成熟度に大きな乖離がある場合、両部門の認識が折り合わず、お互いに「あっちは話のわからない連中」という最悪の関係性が生まれてしまう。経営者は両者の成熟度を正確に測り啓蒙していくことが必要だ。
経営者やDX担当は「DX実現にはアジリティが必要」という思い込みを捨て、一度立ち止まることが求められる。
6.失敗事例
直近の出来事、時流としてアメリカ大手IT企業(GAFA 等)が大規模なリストラや事業整理を行っている。アメリカでの景気悪化懸念が顕在化したと捉えることもできるが、ホラーケースとしてはテクノロジー企業の縮小が続き、現在利用しているクラウドサービスが突然終了することも考えられる。 クラウドファーストを前提としたシステム投資と、それを前提としたITガバナンスを是としている場合、当該サービスはいつまで続くのか?終了してしまった場合にどう対処するのか?といったリスクを軽視してはいけない。サービスの内容によってはあえてオンプレを選択することや、枯れた技術を採用すること、慎重な検討やチェックをITガバナンスに組み込むことが古典的ではあるが必要である。
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